
今回の新型コロナにおいては、今までの災害時の対応とは異なる部分が増えています。
台風での災害、地震での災害もありましたが、東日本大震災は比較的広範囲だったとはいえ、日本全国というものではありませんでした。
また、今までも不況時、リーマンショックの時の年越し派遣村など記憶している人もいるでしょうが、あの時は、雇用保険からそれぞれの会社に対して助成金(雇用調整助成金)がありました。
本来は、会社が休業を命じた場合は、休業している従業員に休業手当を払わないといけません(労働基準法26条)。
その休業手当を会社に対して補助するお金が雇用調整助成金です。
この助成金は、あくまでも国が会社にお金を渡すものです。従業員は、会社が申請手続きをしてくれないとまったくもらえないことになります。
会社へ払うお金が助成金です。
今回は、非常時なので、何度も変更されて簡素化され、申請が簡単になったと言われる「雇用調整助成金」だけでなく、直接、労働者に払ってしまおうという動きまででています。
その後、国会で決まりました。
こちらの記事に決定後のことが書いてあります。
>>休業手当が出なかった人にも給付金(バイトやパートも)新しい休業支援金
以下は、国会で決まる前の話です。
Contents
会社を通じてではなく労働者に直接払う支援金
今回の新型コロナでは、飲食店、それも小さなお店が多く「自粛」という形で営業できなくなっています。
お金がないからと、会社などから休業手当さえ受け取れない人が出てきているのです。
国が直接、労働者に対して給付金を支払う「休業支援金」の制度をつくるとまでなっています。
ただし、これは国会の審議を経てからです。国のお金が出るからです。必要な財源は、国の一般会計で賄うとしています(第2次補正予算案に盛り込む予定)。
この予定されている、新たな制度では、中小企業の従業員を対象としています。
申請があった人(会社にではなく)に対して、休業日数に応じて給付金を支払うとしています。
さらに、雇用保険に加入していなかった人(週20時間以上働く人が雇用保険に加入するためアルバイトなど週20時間に届かない人)にも給付金を渡せるという利点があります。
だから、「バイトであっても、支給されるらしい」、とネットでも言われているのです。
会社の証明があれば払うようになるだろうと言われているからです。
現在、会社から休業手当をもらっていない人は、この「休業支援金」(名称も雇用調整給付金などと言われ、まだ決まっていない)についてテレビでも新聞でもいいので、報道に注意しておきましょう。
現時点では、制度を作る予定とだけしかわかっていませんので。
中には、勘違いして、バイトに雇用調整助成金を出す、といっている人がいますが、雇用調整助成金はあくまでも、会社に、です。
新給付金はおそらく、休業手当の支援金や給付金のような名称になって違いがわかるようになるかと思われます。
【5月末時点の追記】
厚生労働省のページ
上のリンクを見ていただくとわかりますが、すでに厚生労働省では令和2年5月26日に、労働政策審議会職業安定審議会に諮問しています。
上記の給付金(名前はまだ仮称の段階ですが、新型コロナ対応休業支援金など)だけでなく、雇用保険施行規則も一部改正される予定です(本人やその家族が新型コロナに感染したことで会社を辞めることになった場合や個別延長給付なども含む)。
- 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律案要綱について
- 雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱について
主な議題はこのようになっていました。
概略だけですが、大企業を除く会社(中小零細の会社)で働いていた労働者に対して、休業していた期間に応じて、となりますが、休業前にもらっていた賃金の8割程度が給付金として払われるようです。
例えば、休業期間20日、休業前の1日あたりのバイト代が1万円だった、という人なら、8千円×20日となりますね。
「休業手当を受けられない労働者」に対する給付金です。
(1)雇用保険に加入していた人
中小企業の被保険者に対し、休業前賃金の80%(月額上限33万円)を休業実績に応じて支給
(2)雇用保険に加入していなかった人
雇用保険の被保険者でない労働者についても、予算の定めるところにより、給付金を支給する事業を実施
という2パターンになります。
雇用保険に加入していた被保険者なら、当然といえば当然でしょう。本来なら会社が労働者に休業手当を払い、そのお金は雇用調整助成金から補えばいいわけで、会社が助成金の申請をしていなかったために労働者が泣き寝入りするのは問題だからです。
これに加えて、雇用保険に加入していなかった人(例えば週10時間だけ働いていたなど)についても、「予算の定めるところ」という制限はありますが、給付金を出そうという予定のようです。
ただし、このような給付金にも問題があって、下にも書いていますが、経営者が「勝手に判断」して、政府が緊急事態宣言を出したことで、いわば休業を強制されたのだから、うちの会社は休業手当を払わなくてもいい場合に該当する、だから休業手当をバイトなり社員なりに払わなくてもいい。そういう経営者がいないとも限りません。
そういう労働基準法違反の会社まで、結果的に助ける、ということになってしまうという懸念があります。
労働基準法に違反しているのに、うちは休業手当を出さなくてもいい場合に該当するんだよと言われて休んでいた労働者が休業手当がもらえなかったとして、今回の新設される予定の給付金をもらっていたら、どうなる?
ということです。
面倒くさい書類だとか、支払いが遅いだとかと不評を買っている雇用調整助成金は、あくまでも、払っている場合です。
会社→休業手当→労働者
この「休業手当」を助成する助成金(中小企業なら会社負担分の100%政府が補助する場合もあり)です。
休業手当を払っているという大前提があってこその話です。
それを休業手当を支払う義務があるにもかかわらず払わない会社を結果的に助けることにならないか、という問題です。
それでも迅速に労働者にお金が渡るならいいではないか、という意見もあるでしょう。
しかし、国のお金(税金)を使って労働基準法違反(労働基準法26条)の会社のために給付金が存在していた、となると話は違ってきます。労働者がお金をもらえたから、という理由で休業手当支払い義務は免責にはならないのです。
休業手当を会社が支払わなければならない場合なのか、それとも休業手当の支払い義務がない場合に該当するのか、というあいまいな部分をどう決めるのかを含めて、本来は会社が払うべきお金だった場合にどうするか、という問題が残っています。
法律案、省令案となっていて、「案」の段階ですから、まだ正式な決まりごとではありません。
これからどのように審議されるのか注目しておきたいです。
【追記ここまで】
休業手当とは何?
会社の都合による理由で(会社に責のある理由)で労働者を休業させた場合には、休業させた日に対して、会社は労働者に平均賃金の100分の60以上の休業手当を払わないといけないと労働基準法26条に定められています。
- 使用者の責に帰すべき理由による休業
- 平均賃金の6割
- 労働者に対して支払う
こういう決まりがあったのです。
参考:労働基準法
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
自粛要請があったので、「お店を開けられないから、今月は休んでね」と言っても、従業員にも生活があります。
休んだら全く給与がでないのでは、解雇と同じようなものです。
解雇だったら、失業手当をもらいにハローワークに行けばいいのですが、解雇ではなく、「来月からは働いてね」、ということですから、ただ単に、一時的に働けないだけで、失業者ではありません。
それも会社命令で休んでいるだけです。 そこで休業手当を払うわけですが、法律上は平均賃金の6割以上となっているので、企業としては全額ではなく、6割だけ払うとなっていたようです。
20万円の給料だったら、12万円というようにです(ただし、厳密にいうと平均賃金の6割以上なので、実際の給与とは異なる)。
ただし、
この休業手当ですが、今回のような「緊急事態宣言」だと、それまでの「自粛」要請とは事情が違ってきます。
以下は、厚生労働省の作成のパンフレットです。
- 「会社の責に帰すべき」理由での休業なら休業手当を払わないといけない
- 「不可抗力」による休業なら、休業手当の支払義務はない
と書かれています。
参考:厚生労働省のパンフレット(令和2年5月1日付け)より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf#page=16
不可抗力による休業なら払う義務がないとなっています。
しかし、これは、①と②の両方ともを満たす必要があります。
「緊急事態宣言に基づく要請」は事業運営を困難にする要因です。
しかし、それだけでは休業手当を支払わない理由になりません。
会社側も工夫や努力が必要なのです。
従業員を自宅勤務させることが可能な仕事なのにしていない、その休ませる労働者に対し他に回せる仕事があるのに休業させている、などです。
コロナで緊急事態宣言が出たから、休業手当払わなくてもいい、ではないのです。
このようなことは、「個別に判断」されます。
そのため、どのような仕事なのか、ひとつひとつ見る必要があるでしょう(うちの場合は休業手当を出さないでいいんだよ、と言われた人は、具体的な事情を話して労働基準監督署に聞いてみるといいでしょう)。
一部には、緊急事態宣言による要請だけでは理由にならない、会社名や店名公表にまでならないと、休業手当を支払わなくてもいい理由にはならない、とする意見もあります。しかし、そこまでやるとなると、休業手当を払うくらいなら、自粛要請を無視して営業を続ける、という店が出ないとも限りません(大阪府のパチンコ店のような例)。
ここは、やはり厚生労働省の判断になると思います(最終的には裁判かもしれませんが)。会社、もしくは労働者が自己判断するのは望ましくないでしょう。
経営者の側でも、勝手に自己判断して「政府の緊急事態宣言を受けて休まないといけなくなったから、うちは休業手当を払わなくてもいいのだ」と労働者に説明してはいけません。
(休業手当を出さなければならない場合と出す必要がない場合の線引は、労働者側にたつ弁護士と会社側にたつ弁護士では意見は異なる)。
現在、緊急事態宣言が解除されている県も多い既に解除されているので、その場合は、上記の①にすら当てはまらないので、当然ながら休業手当を払う必要がありますね。
本来の雇用調整助成金は条件が厳しかった
会社のほうでも、東日本大震災を想像してもらうとわかるように、今までのような儲けがないという厳しい経営の中で従業員に休業手当のお金を払うとなると大変です。
そこで、企業が払う休業手当を補助するということで、国からのお金、雇用調整助成金がありました。
リーマンショックや東日本大震災のような景気が急に落ち込むなどして、従業員を休ませる場合があります。
東日本大震災などでは会社が復活するまで家にいてほしいという場合もあったでしょう。
一時的に従業員に休んでもらう、または、自宅で教育訓練をしてもらっておくなどありました。
そのようにして、「従業員を解雇しない」、「雇用を維持した場合」に、助成金が出るとなっていたのです。
政府としては、とにかく雇用を維持してもらいたい、多くの人が失業者になるのは避けたかったからです。
従業員のほうでも慣れ親しんだ会社の仕事を続けるほうが今から新しい職場に慣れるとか、新しい仕事を覚えるよりは、そのほうがいいでしょう。もう転職しようかな、と思っていた人以外は、そのほうが合理的です。
この雇用調整助成金は、雇用保険からお金が出るので、雇用保険を払っている事業主に対して使われる助成金です。
会社経営していても役員のみだと、雇用保険に加入していない場合もあります。週10時間だけのようなアルバイトも雇用保険に加入の対象外です
対象者は雇用保険に加入していることが必要です(特例ではない場合)。
今までの雇用調整助成金は、けっこう条件が厳しかったのです。まずは、売上が減っている必要があります。
「最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること」のような条件があったのです。
事前に休業計画書を出すというのも、ハードルが高いものでした。
雇用調整助成金の条件が厳しく申請が複雑との指摘
それがこの新型コロナでは使いづらいとされました。
こんな面倒臭いことをしているくらいなら、解雇してしまったほうがいいのではないか、と経営者が選択してしまったら、国の雇用維持の方針とは異なってしまいます。
あくまでも雇用を維持したいのです。失業者をあふれさせたくないわけです。
しかし会社には金銭的余裕がありません。助成金がないと営業短縮や休業でお金が入ってこないのに、2,3ヶ月も休業手当を払い続けていたら、倒産するところもあるでしょう。
そこで雇用調整助成金なのですが、とにかく、雇用調整助成金の申請は書類が多くそれを揃えるだけでも大変でした。
不備があったら、その都度補正です。
さらに以前の助成金の申請においては、性悪説に立っているような印象でした。
国から出るお金なので、不正があってはなりません。
助成金というものは、融資や貸付とは違い、返済する必要がない「もらえるお金」です。
なので、中には、不正を行ってまでお金を得ようとした会社が存在したことも事実です。不正が見つかるたびに、新聞報道されていたのです。
するとまた、不正を防止しようと、チェックするのに時間がかかって、という悪循環です。
さらに、助成金自体も休業手当のお金全額ではなく、中小企業なら3分の2というしばりもありました。
令和2年4月から雇用調整助成金を使いやすくするために何度も制度改正
書類を揃えるだけでも大変で、それでなくても新型コロナでは人との接触を避けるため役所まで行くことさえ、ためらわれる事態です。
それで、政府は何度も簡略化へと緩和の動きがありました。
中小企業は休業手当をの5分の4に、大企業は3分の2と枠を拡大しました。解雇を伴わない場合には、中小企業は10分の9に、大企業は4分の3に増額するなど次々と変わっていきました。
さらには知事からの要請で営業短縮、休業などで協力する場合には、休業手当全額を国から払うとまでなったのです。
しかし、今まで、このような助成金の申請手続きを行ってきたことない会社にとっては、「もらえるお金」と聞いてもどのように申請書を書いたらいいのかさえ、わかりません。だから教えてもらおうと労働局に行きます。
都道府県の労働局の窓口は大変混雑しました。
今までの雇用調整助成金の申請書は、プロが書いても、補正が入って何度か書類のやり取りを行ってきたくらいです。
申請書の事務手続きをしたことがない会社の経営者がいきなり窓口に言っても複雑な書類のやり取りでは何度もやり直しがあります。それがお金をいただけるまで時間がかかる、と言われたひとつの原因です。
4月の時点では、とある会社の申請書の書類は、70枚にもなっていたと言われていました。
多くの経営者、特に飲食店が今回多かったようですが、「これほどまで書類が必要だとは思わなかった」、との声が多く聞かれました。就業規則だとか、平均賃金がわかる書類など用意するためです。
5月に入ってからは、手続きの簡素化をすすめ、助成金についても申請から入金まで2ヶ月かかっていたのが、2週間までになってきたと報道されていました。
さらには、現在、1人1日当たり8,330円が上限金額になっていましたが、それを1万5000円に引き上げて、利用できる会社、従業員を増やしていくという方針が決まっています。
今までのリーマンショック時や東日本大震災の時は、この雇用調整助成金を申請する会社は製造業など、会社の中に経理部や人事部などがあった会社が比較的多かったのです。
それでこのような助成金の申請もそこが担当していたのですが、今回の新型コロナでの自粛では、飲食店やイベント会社など、小規模で社内に人事部がなくて、経営者みずからアルバイト代など給与計算して払っていたケースが多かったといわれています。
そこで、休業手当を受け取れないような零細企業で働く人を救済するための制度が考えられました(雇用保険の対象外になっていた人にも)。
当初は、東日本大震災、熊本地震などで活用された「みなし失業制度」が検討され
当初は、以前にも、東日本大震災だけでなく、令和元年の台風での災害や熊本地震でも活用された「みなし失業制度」が適用を検討されました。
激甚災害法の適用を受けた地域には、雇用保険の特例が適用されてきていたのです。
この制度については以前にも熊本地震の時にブログ記事を書きました。
これは、災害が発生したなどの理由で会社が休業状態になり雇用保険に入っている人が休業したけれど、休業手当など会社からの支給がなく、他でも働いていないという場合に限って、失業とみなす制度です。
一時帰休というものです。会社に在籍したまま、従業員を一時的に休ませる方法です。
当然のことながら、休業手当をもらっていないわけですから、どこからもお金が入ってきません。
それなのに、会社が再開、となったら会社に戻らないといけないわけですから、次の就職先を探すわけにもいきません。
宙ぶらりんの状態です。
そこで、いったん離職したとみなすことで、一時的に、失業給付をもらっておき、そのお金で生活できるようにする、という制度があったのです。
これはあくまでも、激甚災害の指定を受けた地域ですから、対象地域と対象時期を限定した特例になります。
会社を辞めていないのに、失業給付がもらえるという、例外中の例外です。みなし失業制度というように、いったん会社を辞めて再雇用を約束した場合にも適用されました。
ただし、一度は失業給付を受けたとして、雇用保険の加入期間のリセットがあるというデメリットも存在しました。
これを新型コロナでの休業にも当てはめようという動きがあったのです。
ですが、今までの場合、地域も限定されていましたし、あくまでも災害がありそのことによって会社が休業、という激甚災害発生時に、です。
自治体が各企業に休業を要請するようなものではありませんでした。
みなしとはいえ、失業とは言い難いということがあったようですし、すでに雇用調整助成金のこともありますから、雇用保険の財政に対しても厳しいものがあったのかもしれません。
それで、このみなし失業制度を使って雇用保険の失業給付から、ということではなく、労働者に直接、休業手当に相当する休業支援金の制度を作る方向になったのです。
これなら会社経営者が雇用調整助成金を申請しようとしないために休業手当を払ってもらえない、雇用保険に入っていないから退職を選んだとしても失業給付ももらえない、という人たちにも支給されます。
書類作成が面倒だとして、雇用調整助成金も申請しない、休業手当も払わないという本来なら労働基準法にも違反する会社(そのような会社は、休業手当がもらえないのが嫌なのなら辞めてもらってかまわないというらしい)もあります。
会社側も、本来は営業したいのに、都道府県からの要請で営業できない、それなのに、休業手当は払わないといけないとなると、倒産もしくは廃業という道を選ばざるを得ないこともあるでしょう。
小規模な店鋪ですと、家賃もかかって2ヶ月、3ヶ月の固定費となる運転資金を回すことも困難な状況にあることでしょう。経営者も金銭的に苦しいために余裕がなくて、「休業手当なき休業」を強いられた労働者もいるはずです。
そのような人を救済するためにもまだ具体的な内容がわかりませんが、国会での審議をできるだけ素早くしてほしいものです。